骨粗しょう症と歯科治療というと、あまり関係がないように思われますが、実は大きな関係があります。骨粗しょう症と歯科治療は、薬の服用で歯科治療の制限があるだけでなく、歯科用レントゲンによって骨粗しょう症のスクリーニングが可能となります。
当院での、実際のケースをもとに、説明させていただきます。
骨粗しょう症とは
骨粗しょう症とは、骨の強さが低下して、骨折しやすい状態になることです。骨強度は、骨量の指標となる「骨密度」と骨の構造など「骨質」の2つの要因によって決まります。
骨粗しょう症は男性よりも女性に起こりやすい病気です。骨の量は女性ホルモンや老化と関係が深く、閉経すると、女性ホルモンが減少し、骨の量も減少するため、骨粗しょう症は閉経後の高齢女性に特に多くみられます。
日本骨粗鬆症学会と日本骨代謝学会、骨粗鬆症財団が発表した「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」によると、日本の骨粗しょう症の患者数は1280万人と推計されています。
(参考:http://www.josteo.com/ja/guideline/doc/15_1.pdf)
歯科と骨粗しょう症の関係
歯科治療と骨粗しょう症の関係として挙げられるのは、骨粗しょう症の治療の際に服用する薬剤によっては、治療時に注意が必要です。
特に、ビスホスホネート製剤(BP製剤)や抗RANKLモノクローナル抗体(デノスマブ)などの服用時には注意が必要だと言われています。
ビスホスホネート製剤や抗RANKLモノクローナル抗体と歯科治療
ビスホスホネート製剤(BP製剤)や抗RANKLモノクローナル抗体(デノスマブ)などの骨粗鬆症のお薬を一定期間服用していると、抜歯やインプラント等の外科処置後に、顎骨壊死や炎症反応の副作用が出るケースがあります。
そのため、抜歯やインプラントなどの外科処置を行う場合には、お薬を3~4か月休薬していただいていました。しかし休薬しなくとも顎骨壊死や炎症反応の副作用は、細菌感染によって起こることがわかっており、口内を清潔に保つことで副作用は抑制できると言われています。
当院でも、処置前にお口の中をきれいにし、適切な予防処置、術前や術後の管理を行っております。
骨粗しょう症治療と歯科治療に関する当院の考え
顎骨壊死の情報が広まった当初は、骨吸収抑制薬を服用している患者さまの歯科治療は二の足を踏んでいたこともありました。
しかし現在では、顎骨壊死への対処法が徐々に明らかになっており、休薬の効果があまりないことや、休薬期間中に骨折リスクが増加することを考慮し、可能な限り休薬なしで治療を進める方針を採用しています。
患者様が自分らしい生活を送るためにも、まずは必要な骨粗しょう症治療を受けていただくことが第一だと考えています。その上で、歯科治療をどのように進めるかを検討し、お口の中だけでなくそれに関連した疾患を早期に発見して治療を実施することが、患者様の健康寿命を延ばすことに繋がっていくと思っています。
骨粗しょう症をパノラマレントゲン撮影で発見
整形外科等で行う、骨粗しょう症の診断には、骨の量や成分(骨密度)を測定するためには、DXA(DEXA)法、超音波法、MD法、CT法といった詳しい検査があります。しかし、実際にご自分で自覚症状があり、検査に行くケースは少なく、骨折で骨粗しょう症と診断されるケースも多くあります。
当院では、歯科の検査に用いる「歯科用パノラマ撮影」で、お口の中の診査を行う際に、骨粗しょう症のリスクや疑いのある患者さまのスクリーニング検査も行っております。
詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。
実際のケース
当院では、実際に歯科用レントゲンから骨粗しょう症の患者さまや骨折リスクの高い患者さまのスクリーニングを行い、実際の診断に繋がったケースがあります。2022年では、17人の患者さまに骨粗しょう症の疑いがあり、近隣の整形外科を紹介させていただきました。
その結果、17人中、1人の方が問題なし、もう1人の方が骨量減少の所見、残りの15人の方は骨粗しょう症の診断となりました。患者さん自身も自覚症状はありませんでしたが、パノラマレントゲンにスクリーニングにより、骨粗しょう症を早期発見することができました。
問題なし
骨粗しょう症の疑いのある方
骨粗しょう症の疑いのある方
骨粗しょう症の疑いのある方
専門医院に紹介
該当所見があった際は、近隣の整形外科に紹介させていただきます。骨粗しょう症の正確な診査・診断を行える「DXA(DEXA)法」による骨量測定を行っております。
骨粗しょう症を早期発見することによるメリット
メリット1:早期発見・早期治療が可能
早期発見することにより、お薬の服用、食事や運動療法等によって骨量を増やして、進行を防ぎます。
メリット2:骨折等による寝たきりリスクの回避
骨折してから骨粗しょう症だと気付くケースも多くあります。骨折する場所が大腿骨(足の付け根の骨)だと介護が必要になることが多く、10人中6人が1年後も補助を必要とすることが分かっています。
早期治療により、骨折を回避し、寝たきりによるリスクを回避できます。
メリット3:医療費や家族の負担を減らせる
骨粗しょう症によって骨折してしまい、要介護状態になると、入院や通院費、治療費等の費用負担も大きくなります。
また、介護する側の家族の負担も多くなります。早期発見・早期治療により、医療費や家族にかかる負担も減らせます。
メリット4:健康寿命が長くなる
単に長寿を目指すのではなく、健康で自立した生活を送れる「健康寿命」を伸ばすことが重要だと言われています。
日本人の平均寿命と健康寿命の差を比べてみますと、男性では約9年、女性は約12年もの差があり、実際に多くの方が長期間「健康ではない」状態で過ごしています。
骨粗しょう症を予防し、早期発見・治療によって、健康寿命を延ばすことができます。
メリット5:死亡率を下げることができる
大腿骨頸部骨折をしてしまい、予後が悪いと「1年以内」の死亡率が高くなってしまい、その死亡率は、男性が31.3%、女性が32.1%となっています。
骨折後に退院しても、2年以内に男性が49.6%、女性が49.8%の方が亡くなっています。骨折により、ADL(日常生活動作)の低下や、筋力の低下といった全身症状が死亡率を上げる要因のひとつとなってきます。
骨粗しょう症を早期発見、早期治療することで死亡率を下げることにもつながります。
患者さまへお願い
定期的な受診
骨粗しょう症のお薬を服用している患者さまは、顎骨壊死を予防するために、口腔内の状態を清潔に保つことが重要となってきます。
定期的に来院していただき、お口の中のチェックと歯科医院で行うクリーニングが必要です。
情報共有に関して
当院の受診にあたり、以下の情報の共有をお願いしております。
- お体の状況
- 既往歴
- 現在服用している薬
- お薬手帳
お身体の状態や服用している薬によっては、治療の制限が出るケースがあります。そのため、初診時やお身体の状況や服用している薬が変わった際は、お申し付けください。